ミスを減らし、良い決断をするためのチェックリスト
- 上司からオススメされた「アナタはなぜチェックリストを使わないのか? 」という本が非常に面白かったので共有します。
- チェックリスト作りのHow to が書かれているようなタイトルですが、中身としては「ミスを減らし」「良い決断をする」道具としてチェックリストが有用であるということが書かれています。
- 結果としてチェックリストの作成・運用を成功させるためのエッセンスを得ることが出来ます。巻末にある「チェックリストを作るためのチェックリスト」は非常に興味深いです。
何が問題なのか?
高度で複雑な問題を解決する必要のある職業・プロジェクト(e.g: 外科手術、高層ビルの建築、一流レストラン...)では以下の問題が共通して存在します。
- うっかりミス
- 問題が複雑であり、専門分化が進んでいる
- 常に予測不可能なことが起こる
うっかりミス
うっかりミス、というのは残念ながらよく起こります。人間の記憶力は有限かつ脆弱なので「やらなきゃいけないことが漏れる」「やり方を間違える」リスクは常に存在します。
さらに人間は怠惰なので「手順を省略する誘惑」が付きまといます。「慣れている作業だから」「急いでいるから」といった様々な理由(言い訳)で本来やるべきことを省略してしまい、失敗に終わってしまうケースも多いのです。
特に「権力を持ったキーマン(e.g: 外科手術における外科医)」がいて、その人を引き止める権限を誰も持っていない場合は非常に危険です。キーマンが誘惑に負けてしまった場合、チームとしてミスを止めることが不可能になるからです。
問題が複雑であり、専門分化が進んでいる
複雑かつ多様な問題が発生する業界では、一人の人間があらゆる分野に精通し、全ての問題を解決することは不可能になっています。そこで、分野を細かく分け各々がそれぞれの専門分野を深く理解する「スペシャリスト」になり、スペシャリスト同士が協力しながら問題を解決していく必要があります。
そこで問題になるのは「コミュニケーション」です。それぞれのスペシャリストが漏れなく、実りのあるコミュニケーションを取ることが出来なければ、ミスが起こったり、誤った決断をしてしまったりします。
常に予測不可能なことが起こる
高度な問題に取り組む時に「前もって予定していた通りに全てが上手くいく」ことは多くない、というかむしろ極めて稀です。大抵は実行している中で想定外の事象が発生し、それに対する対処が必要となります。
想定外の事象に対処するにはコミュニケーションが非常に重要になってきます。限られた時間の中で対処法を模索するには、メンバーのコミュニケーションが円滑に行われる必要があります。さらに言えば「円滑にコミュニケーションを行える」ための土台が「事前に」作られている必要があるのです。
チェックリストの効果
ミスを減らす
あらかじめ必要な手順を記したチェックリストを利用することでミスを減らすことが出来ます。そして、それ以上に重要なことはチェックリストを利用して「権力を再配分できる」点です。
「チェックする人」を「権力を持ったキーマン」と分けることにより、手順を省略する誘惑にチームとして戦うことが出来るからです。あらかじめ「チェックする人の権限」を保証することにより、キーマンによるミスを止めることが出来るのです。 本の中では「手術室の看護師」がメスの上にカバーを置き、チェックリストが埋まってからカバーを取り外し、外科医が手術を開始するというルールを保証するという例が挙げられています。
コミュニケーションを円滑にする
「チェックリストを埋める」という儀式自体がまずコミュニケーションになるので、その後のコミュニケーションを円滑にする役割を果たします。特に、「予測不可能なことが起こることが予測される(Known Unknown)」状況では事前にチェックリストを読み合わせてコミュニケーションを円滑にしておくことで、実際に予測不可能なことが起きた時のチームとしての対処能力を高めることが出来ます。
また「コミュニケーションを取る」という項目をチェックリストに入れることでコミュニケーションが漏れることを防ぐことが出来ます。 高層ビルの建築では「各工程における手順のチェックリスト(ミスを減らすためのチェックリスト)」とは別に「何時までにXという工程について誰と誰が議論する」という「コミュニケーションのためのチェックリスト」が作成され、コミュニケーションが漏れたり遅れたりすることを防いでいます。
チェックリスト作成時に気をつけること
いつ使うかを定義する
チェックリストには「行動、のち読む」「読む、のち行動」の2種類があり、状況によって使い分けます。本の中では「一時停止点(Pause Point)」という単語が使われていますが、予め一時停止点を共有しチェックリストの運用が確実に行われることを保証する必要が有ります。
項目を増やしすぎない
項目が多くなるほど、作業効率を下げてしまうとともに「省略する誘惑」が湧きやすくなります。具体的には「一時停止点あたり9項目まで」と定められています。本当に必要な項目に絞ってチェックリストを作成することで、作業を過剰に止めることなくミスを防ぐことが出来ます。
実運用の中で検証・更新する
チェックリストを作成したら実運用の中でテストをして、「項目に過不足がないか」「タイミングは適切か」「所要時間は適切か」などを検証します。また、時間とともにチェックすべき内容は変化するので、定期的にテストを行って項目を更新していくことも大切です。
// 当たり前といえば当たり前ですが、実際には行われていないケースが多いように思います。 // 現場にそぐわない膨大な項目のチェックリストが作成され、面倒になって利用されなくなって腐る...みたいな。
おわりに
IT業界の話は出てきませんでしたが応用の効く内容が多いように感じました。本番作業・障害対応は外科手術や旅客機の運行から学ぶところは多いですし、プロジェクト推進については高層ビルの建築と非常に似た問題(クリティカルパスが多い)を抱えています。
繰り返しになりますが、チェックリスト作りのHow to ではなく、「ミスを減らし」「良い決断をする」道具としてチェックリストが有用であることが書かれている本です。
エンジニアには単純な技術力だけでなく「ミスを減らす」「コミュニケーションを確実に取る」といったソフトなスキルも必要で、後者の部分について考える良いキッカケになりました。若手エンジニアには非常におすすめの一冊です。